ぼんごさんと音楽、前編は外で聞く編としてお届けしました。
「外出は戦争」と言っても過言ではないほど毎日の登校が苦痛でしかなかったぼんごにとって、自分を鼓舞してくれる強く勢いのある激しい音楽は一種の増強剤のようで、これらの音楽の力を借りられたことで辛い時間を乗り越えられたようなものだった。乗り越えたというか滅茶苦茶な勢いを得て、不安に蓋をして無心に突き進むことができたというか。
いっぽう家にいるときは、優しい音楽や楽しい音楽を好んで聞いた。
優しい音は緊張を心地よくほぐしてくれたし、楽しい音楽は不安を和らげてくれた。
がっちり閉じているはずの壁に、実はいくつもの穴もあり隙間もあって、こういった壁の隙間から、外の世界は決して怖いものじゃないと優しく語りかけてくれるような音楽を、外の世界はもっと楽しいものだよと誘い出してくれるような音楽を、ぼんごは聞いた。それで、ちょっと穴から眺めてみては、なんか大丈夫そうだと、外界にちょっとだけ希望を感じたりも、した。
家で聞く編
スピッツ / Crispy!
スピッツの楽曲はいずれも名曲揃い。
このアルバムは「クリスピー」「君が思い出になる前に」「夢じゃない」と、テレビドラマの主題歌のようにキラキラと輝いている曲が多く、きっと青春とはこんな雰囲気なんだろうなと、スピーカーから爽やかな空気が溢れ出してくるのをぼんごは楽しんだ。
自分の心の中にもそういったキラキラに憧れたり、理解しようとする気持ちがあることを実感して、壁の外にあたりまえに存在している普通の世界は、自分が思うよりも近くにあるような気になったりした。
爽やかさだけがスピッツじゃない。
草野マサムネの何というのかね、伸びのあっておおらかで優しく、どこか一途な少年を感じさせるちょっと切ないような歌声はバラードのときに、よりぼんごに刺さった。
「君だけを」。
この曲をひとり、よく聞いた。
白い音にうずもれ カビ臭い毛布を抱き
想いをはせる woo 夜空に
スピッツ『君だけを』より
作曲:草野正宗
詞:草野正宗
ぼんごも布を抱いていた。
ぼろぼろの布、入退院を繰り返すあの日と同じ布を吸いながら、ぼんごは壁の外を想った。
THE BOOM / 極東サンバ
THE BOOMは当時、「島唄」「風になりたい」といった曲に代表的なように、エキゾチックなリズムとメロディを曲に取り入れ、また「星のラブレター」に顕著なようにスカのスタイルを歌謡曲にマッチさせるなど、独自の音楽性を掲げて、バンドブームのありがちなバンドとは少し違う楽曲を作る、斬新な音楽性をお茶の間に鳴らすバンドとして活躍していた。
斬新といっても奇をてらった音楽性を追い求めるだけではなく、「中央線」のように普遍的で地に足の着いた良曲を作ることもできる器用なバンドで、あの頃の大きな意味での音楽の一音をしっかり鳴らすバンドだった。
(・・・そういうバンドはTHE BOOMだけではなかったけれども。)
そのワールドワイドな音楽性に乗ってゆったりと届いてくるのは意外にも、自分の夏休みの出来事だったり、目の前のあなた、だったり、歯磨きをやめて電車に飛び乗る自分だったりと身の回りの情景も多くて、「帰ろうかな」という曲には、遠くにありて思うもの不動の第一位として時代も世代も地域も性別も人種も越えて人間なら誰しも感じるであろう、生まれ故郷への「郷愁」があった。
鍵盤っぽいオルゴールっぽい上物が、故郷への郷愁を誘う。可愛くて大切なあの日の思い出のよう。
きっちりリズムを切ってくるドラムと腰に来るグルーブ感たっぷりのベース、そしてたまに鳴るアコギの暗めのレゲエ風のきざったい鳴りは洗練された都会の格好良さを思わせる。
で、その間で煮え切らずに行きつ戻りつ「ふわ~ん」と鳴るギター。これは、家に帰るか帰るまいか考えて迷う自分自身の気持ちのように、僕には聞こえる。
帰ろうかな やめようかな
朝一番の汽車に乗って
帰ろうかな やめようかな
長いトンネルぬけて
THE BOOM『帰ろうかな』より
作曲:宮沢和史
詞:宮沢和史
故郷を離れて暮らすわけじゃないのに、不思議とぼんごも郷愁を覚えたみたい。
高校の頃は、もはや腎炎の頃の自分は懐かしかった。
謎の体調不良に比べれば、あの腎炎の日々はそれはそれで安静な日々だった。みんな優しかった。
そういう日々を思い出したりして懐かしくなって、いまも変わらずあの日の匂いのする布をすんすんと嗅いで、ぼんごは安心したのかぐーと寝た。
Chara / Sweet
「罪深く愛してよ」「Tiny Tiny Tiny」「恋をした」。
Charaは曲の格好良さ、可愛さもさることながら、Chara自身のミュージシャンとしての可愛さがぼんごの好みにぴったりだった。
高校生のぼんごは自分もこんな風に可愛く着飾って洗練された世界の住人になってみたいと憧れた。
自分自身がそういう存在になれなかったとしても、こういう存在に近づいて、プロモーションビデオなんかを制作する仕事に携わることが出来たら楽しいだろうなあと、漠然とではあるが将来の夢のようなものを与えてくれる存在がCharaだったりした。
ぼんごにしてはめずらしく、将来の自分の理想に近い存在が現実に存在していて、こういう風になってみたいと、自分の人生の先のほうで光り輝いて自分を導いてくれそうな、アイドルそのものだったのだ。
好きなのは「Sweet」だった。
この曲のPVが大好きで、よく見た。
自分もこういう存在になれる将来が来たらなんて素敵なんだろうと、考えるだけで明るい気分になれた。
壁の向こうではこういう素敵な存在が人生を謳歌する、まぶしい世界が広がっているんだ、たぶん。
私も壁を壊してすこし外へ出てみてもいいのかもしれない。それが辛いことであったとしても、この壁を殴って、自由になってみたい。
おおきな壁のむこうにある それを
彼の爆弾で焦がして
Chara『Sweet』より
作曲:CHARA・浅田祐介
詞:CHARA
ぼんごは音楽によって、自ら壁を壊す勇気も得たのだろうと僕は想ったりする。
十代の魂の匂いがぷんぷんの多感な高校生活において、ミュージシャンという存在はその壁を一緒に殴ってくれる心強い味方で、いつもぼんごのハートに火をつけてくれる、大切な人たちであった。
音楽が、ミュージシャンが心強い味方であることは、今現在も変わらない。
僕だってそうだ。そしてたぶん今後も変わらない。
いつもありがとう。
前後編にわけてお届けしたぼんごさんと音楽高校編、最後までお読みいただきありがとうございました。
音楽の話は今回上げたもの以外にも沢山書けそうなので機会あったらまた今度。
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