ぼんごさんと高校:発作が起きる場所

ぼんごさんと高校

はじめて発作を起こしたのは電車の中だった。
それからは、電車の中で何度も何度も発作を起こした。

この発作の原因はまったく謎ではあったが、電車に乗っているとき、とくに降りる駅に近づいてきている数駅前あたりが危ないということを、ぼんごは嫌でも理解した。

それで、毎朝電車に乗るたび、ああまた発作が起きたら嫌だな、と、そのことを考えただけで身体がこわばってきて、不調の糸を手繰り寄せてしまうような悪循環(予期不安)が続いた。

発作が起きる場所として、ぼんごにとって電車は最悪と言ってよく、電車に乗るときはいつも発作が起きることを想定して、発作が起きたらすぐ降りられるようにと各駅の電車に乗るのが癖になった。というか、快速みたいな電車は駅と駅の間が長く、降りたいと思った時から降りられるまでの時間が長くなるのが恐怖で、各駅にしか乗れないようになってしまった。

電車のほかにも、狭い空間に閉じ込められる状態、逃げられない場所などは不安を呼び起こす原因となった。

バスもだめだ。バスは電車よりも狭い空間だし人と人の距離が近くて緊張するし、電車とは違って道が混むと次の停留所までの時間が読めないのがより一層不安を感じさせるので、嫌がった。

映画館とか劇場とか閉じた狭い空間などは、行きたい場所ではなかった。
映画は好きだけど、映画館に行くことはなかった。
十数年一緒に過ごして、ぼくがぼんごと映画館に行ったのは1回だけ。映画館なんていつでもドアから出ていけるし、そんなに狭いわけでもないし、どんなところが嫌なの、って聞いたらば、発作が起きたら誰かに介抱してもらわないとならず、映画館とか周りの人に迷惑をかけるし、みんなお金を払って見に来ている映画の上映を台無しにしてしまうのが怖い、みたいなことを言っていた。空間への恐怖心なのではなくて、ある状況を避けられないことに対する心理的圧迫感がとても強いようだ。

また、遊園地にあるような乗り物とかアトラクションなども嫌った。ジェットコースターとか、乗り物に乗って進むようなお化け屋敷みたいなやつとか。なかでも観覧車は最も苦手な乗り物らしい。

そのうち、教室でも発作が起こるようになった。
授業中は教室は閉じた場所であり、多数の人と接する空間であり、先生の目があって緊張するし、長時間逃げられない場所であるわけで、最悪なことによく発作を起こす条件をいろいろと備えてしまっており、高校生のぼんごにとって日常そのものの学校の授業という時間が、耐え難い苦痛を伴う時間になってしまっていた。

こういった普通の生活に普通に登場する状況を避けられない場合、ぼんごは自分の中で暴れようとする発作にただ耐えるしかなく、程度によって耐えられるときもあれば、電車を降りたり、保健室に行って休むようなこともあるのだが、原因がわからないので不安が収まることもなくて、ただ自分を呪うくらいしか、できることがなかった。

自分の周囲にいつも見えない敵がいて、自分に悪さを働いているのだと、そんなふうに抽象的に発作を捉えるようになってしまった。

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