ぼんごさん中学校へゆく

ぼんごさんと中学校

小学校へのがちがち入学とうって変わって、ぼんごさんは普通に中学校に行けた。

普通になるぞ

家の近くの学校だったから、小学校からの知り合いも結構いて、環境の変化に戸惑うようなこともなかった。

学校へは腎炎のことは伝えてあったが、ぼんごさんが自らそれを口にすることは今まで通りなかったし、先生も生徒に病状のことを言わなかったし、ぼんごさんが腎炎だということを知る人はいなかった。

同じ小学校から来ていた子どもたちは「ぼんごは何か病気らしい」ということは知っていたかもしれないけど、そんな感じの曖昧な噂みたいな情報しか伝わっていなかったようだ。

というわけで、ぼんごさんは腎炎のことは完全に壁の中にしまいこんだ。

疲れやすいとか、体力がないとかいうことは伏せられて、ぼんごさんは、壁の外では普通の中学生になろうとしていろいろと試行錯誤していたみたいだ。

体験入部

入学から間もないうち、部活動の勧誘期間が始まった。

廊下にポスターが貼られたり、各部の勧誘のメッセージがあったり、パフォーマンスがあったりと、学校は賑やかに見えた。数週間前まで新人だった子供が急に先輩づいたりして、こないだまでランドセルだった子どもたちもちょっと大人になったような気がしたりして、春の陽気が校舎の隅々まで流れ込んでいたようだった。

部活には所属しないとならないのが決まりで、ぼんごさんも部活を物色した。
それで、本人曰く「なんかできるかなって・・・」と思い立って、軟式テニス部に体験入部をすることにした。

先輩が優しく説明してくれて、このやわらかいボールを投げるから、ラケットでネットの向こうに打ってみてね、とボールを打ち返す体験をしてみることになった。

ぼんごさん以外にもたくさんの体験入部の子どもがいて、ぱこーん、ぽこーんと良い音を立てて灰色の物体がネットを超えてゆくのが見えた。先輩におだてられる後輩。きゃっきゃきゃっきゃ言っている。

この日ラケットを初めて握ったぼんごさん。動いているボールを打つのも初めてのこと。
小学校では見学していた体育の時間に、ただ目の前を行ったり来たりする球状の物体が、いま自分の人生と重なろうとしている。

ぼんごは集中した。
ラケットを強く握って目を見開いてボールを追いかけて、全身の筋肉に力をいれて一点に集中して、腕を振りぬいた。

ぱこーん、ぽこーん。
ぱこーん、ぽこーん。

と遠くで鳴っていた。
「ぼく、軟式テニスに入ります!」
「おおまじか!やった!せんせー!せんせー!」

なんて賑やかな声を聞きながら、ぼんごは空振りを続けた。

ぱこーん、ぽこーん。
ぱこーん、ぽこーん。

隣のコートでは、厚ぼったい春の気圧に逆らうように、ひしゃげたボールがネットの向こうに飛んでゆく。

自分としては今で言えば大坂なおみ選手のように華麗なスイングをしていたはず、ということだが、たぶんとてもいびつな動きだったんだろうねと、笑いながら当時の様子を語ってくれた。ぼんごは、一球も打てなかった。

「軟式テニスはねえな・・・私には無理だ」
と先輩に作り笑いで断りをいれつつ、軟式テニスのボールは自分の人生に重ならないことを悟り、早くも中学生活に壁を築いたぼんごなのであった。

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