ぼんごさんと小学校:鉄棒

腎炎

通っていた小学校に普通に鉄棒があった。
ぼんごさん、体育の授業では、クラスメイトが鉄棒を掴んでくるくる回る姿をよく見学していた。

鉄棒を掴んでぴょんと乗りかかり、前に回るのは前回り。地面を蹴りあがって後ろに回るのは逆上がり。
鉄棒はひとりでやれそうで、持久力や敏捷性が必要そうでもなかったように見えたらしい。
ぼんごさん、鉄棒に少し興味を抱いた。

コーチはお母さん

ぼんごさん、家に帰ってお母さんに鉄棒の話をした。

運動ができないと自認していたぼんごさんが運動に興味を持った様子を見て、お母さんはとても嬉しがった。

うまくできなくてもいいから、お母さんが教えてあげられることなら喜んで教えてあげたい。
お母さんは家のことを放り出して、二人並んで近所の公園へ向かった。

前回りはこんな感じ、逆上がりはこんな感じ、お母さんは鉄棒が得意だとか、誰ちゃんが上手だとか、鉄棒は楽しそうだとか、何気ないことを話しながら歩いた。

運動を忌避する生活ではあったけれど、我が子が何かに挑戦する勇気をちゃんと持つことができている姿を目の当たりにして、お母さんも心が弾んだ。

公園につくと、お母さんは鉄棒に乗りかかってくるっと前に回って地面に立ってみせた。
こうやるのよ、と得意げに何度か回って手本をみせた。

そして、ぼんごさんのコーチが始まった。
「ぴょんと鉄棒に乗りかかって、手で支えるのよ!」
「鉄棒をぎゅっと掴んでなさいね!絶対放しちゃだめよ!力を入れて!」
「腰を曲げて頭を足のほうへ動かすの、押すよ!」

鉄棒に乗りかかったぼんごさんをお母さんが後ろから支えながら押して、ぼんごさんは何度か回転した。
そのうち、天地がひっくり返る感覚をすこし、掴んだ気がした。ほほう、なるほど。

掴む、ジャンプして乗っかる、前に倒れる、足をつく。
掴む、ジャンプして乗っかる、前に倒れる、足をつく。
手、腰、頭、足!

そして。

どっかのお家の夕飯のにおいが公園にも届こうかという頃。

ぼんごさんは前回りを体得した!

布団

数日後、学校の休み時間に、ぼんごさんは鉄棒へ向かった。
ひとりで前回りに挑戦しようと思ったのだ。

手、腰、頭、足。
あの感覚を呼び覚ませば、前回りなんてわけないわ!

ぼんごさんは武者震いするような気持で鉄棒へ走って行った。
駆けてゆくぼんごさん。グラウンドの砂ぼこりが背中で舞っていた。

鉄棒と対峙すると、息を整えて、まず目の前の棒を掴んだ。
手!と力を入れる。

ぐっと鉄棒を握り、腕に力を込めた。次はジャンプだ。
腰!と飛んで、鉄棒に乗った。
よし、いいぞ。

さあ次は回転だ。
頭!とぼんごさんは頭を前のほうに傾けた。
すると身体全体がぐるっと動いて、ぼんごさんの頭は地面のほうに向いた。

最後は着地だ。
足!
ぼんごさんは足に力をこめる。

だがしかし、ぼんごさんの足は地面から離れたままばたばた動くばかりだった。
地面がない。足が付かない。

ぼんごさん、鉄棒の上で体を折って、物干しに干された布団のように宙ぶらりんになってしまった。
勢いが足りなくて回転しきらなかったのだ。

そして、練習の時にこの状態を経験していなかったぼんごさん、前に回る勢いをつけられず、また背中側から足のほうへ降りる勢いもつけられず、ばたばたと手足を動かしてもがくばかりになってしまった。

ま、まずい。
降りられない。

遠くのほうでわーきゃーと子どもが遊ぶ声を聞きながら、ぼんごさんは降りる方法を摸索して手足をばたばたとやった。模索したところで手足をばたばたやるくらいしか方法がなかった。だれか気づいて降ろしてくれないかしら・・・。

何分か干されたところで予鈴を聞いた。
やばい、降りられない。みんなも帰っちゃう!

ぼんごさん焦った。干されたのにじんわり汗が湿った。
これまで以上に手足をばたつかせ、その動きは激しくなっていった。

最終的にどうやって降りたのよ、と聞いたら「どうしたか覚えてないけどどうにかグン!とやって」(本人談)背中のほうから地面に落ちることができたらしい。

そして、授業開始のチャイムがなるまでに教室に全力で駆けて行って、なんとか授業に間に合ったらしい。

しかし、このことが原因で鉄棒がすっかり怖くなってしまった。
ぼんごさんの中で、鉄棒は苦手を超えて禁忌になった。

鉄棒をするな、と言いつけられたわけではなかったが、鉄棒で遊ぶということは自分にとって悪い影響のほうが大きいということを認識する出来事となってしまった。

みんな何気なくくるっと回ったりしているが、この壁のなんと高いことか・・・。
この出来事のあと、ぼんごさんは自分の中で鉄棒の一切をあきらめた。

鉄棒に自分の意志は通じない。
出来るようになろうと願うことすら無駄なこと。

腎臓が悪い自分にとって運動はやっぱり無理なことだったのだ。

そんなふうに冷徹に、みずから鉄棒方面に、心の壁を立てた。

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