長い入院生活の間、ぼんごさんのところへ看護実習の学生が来ることがあった。
だいたい2週間くらいいて、実習を兼ねて身の回りのことを色々世話をしてくれた。
ぼんごさんは入院に慣れた子供だったし、長く入院することがいつものことだったから、看護実習の対象として選ばれることが多かったのでは、とぼんごさん自ら言っている。
外から来たお姉さん
看護実習に来る学生は10代の終わりか20歳くらいか、学生の年齢だった。
すっかり大きくなったぼんごさんと10歳離れているかいないかくらいの年齢だった。
ぼんごさん、退屈してばかりの病院での生活に、外の世界から頼れる存在が来て看病をしてくれて、とても嬉しかった。
病院の中には無い明るさや元気さを感じて、味気ない暮らしの中に花が咲いたみたいな気にもなった。
病院の先生や看護師さんに比べたら年齢も近くて、お姉さんができたみたいな楽しさもあった。
看護実習のお姉さんは、何かの検査についてきてくれたり、お風呂の代わりに身体を拭いてくれたり、ご飯を食べるときに一緒にいてちょっとしたことを手伝ってくれたりした。点滴を利き手の甲から入れていたときは箸を使うのも面倒で、病院食のお皿を近づけてくれたり、パンの日はジャムを塗ってくれたりして、ぼんごさんを手伝ってくれた。子供用の点滴は針が抜けにくいように板のようなもので固定されてテープでぐるぐる巻きになっていたから、ちょっとしたことを手伝ってくれるのはありがたかった。
また、たまごでベッドから下りられないときは、排泄物を処理してもらったりもした。
看護師さんがやってくれることを代理でやってもらうような感じだった。看護実習ですからね。
そういった実習の取り組みのほかに、看護実習生によく遊んでもらったのがぼんごさんのいちばんの思い出だ。
一緒に本を読んでくれたり、折り紙を一緒に折ってくれたり、ビーズでいろんなものを作って遊んでくれたりした。
病院生活では年上のお姉さんと遊ぶことは無かったから、こういう、普段できないこと、とくに年上のお姉さんに甘えて過ごすようなことはとても楽しい時間だったみたい。
お母さんは普段、来てくれても夕方に少しいて、すぐに帰ってしまうから、昼の間から遊んでくれる看護実習生がいる時期は楽しいことが毎日あるような素敵な日々だった。
いまにして思えば、看護実習生にも、入院患者とコミュニケーションをする必要があったはずで、ある意味単位のこともあって積極的にぼんごさんに接してくれていた面もあるのだと思う。きっとかなり緊張しながら、あるときはナースステーションでどやされたりしながら、ぼんごさんと遊んでくれていたのだと思う。
それでも、入院生活が長いぼんごさんにとって、一緒にいて自分に合わせて遊んでくれる人がいるということは、ぼんごさんの心に羽を生やして気持ちを軽くしてくれていた。
大好きだった実習生
ある実習生のかたとはとても仲良くなった。
仲良くなって、ノートに交換日記をつけるようになった。
車いすを押して散歩に連れて行ってもらったり、パズルや折り紙で遊んでもらったり、本を読んでもらったり、紙人形劇を一緒に見たり、トランプをしてもらったり、いろいろ記録がある。
実物をいくつかご紹介。
今日の夜はさんざんでした
なにがあったんだ。
「思っていることを何でも書いて下さい」
なにか、面と向かっては言えないことがありそうな雰囲気でも感じたのかなあ。
今日は、ねつが3.85ぶもありました
熱が出てる。
元気そうに見える字だけど、人知れずベッドでぴーぴー言っていたのだろう。
実習生の方、そんなぼんごさんのところへやってきて遊んでくれたみたいだ。
一人でいるよりずっと心強かったろうな。
こなかったからつまらなかったよ
この日は遊べなかったらしい。
もうすぐ点滴やるのか。
なんだか慣れた様子。
いけない ことだから わかるよね!
いよかん食べちゃったみたい。
やんわり叱られるぼんごなのでした。
もう、実習の終わりが近いみたい。
いやだ いやだの ぼんごちゃん
お別れの日かな。
困らせることばかりやっていたんだ。構ってくれるのが楽しかったんだな。
何でもないコミュニケーションのようだけど、病院の中で優しいお姉さんに甘えられる、とても貴重な時間だったのだろう。
「こんどいつ会えるかな」が寂しいね。
3しゅうかん いろいろとありがとう
実習生の方からの最後のメッセージだ。
ご丁寧に住所も書いてくれていたみたい。
この方は、実習が終わってからも何度か手紙をくれて、やり取りが続いたんだって。旅先の様子なんかを伝えてくれて、ぼんごさんは外の世界の様子をすこし知ることができたみたい。実習が終わると立派に看護師になられて、実習に来ていた病院に勤めたという話だ。元気に過ごしているかなあ。
おかげさまで、ぼんごは何とかやってます。
あのときは一緒に遊んでくれてありがとう。
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