ぼんごさんの入院生活:ぼんごさんとバナナ飴

腎炎

甘いものに飢えていたぼんごさん。
あるとき、見かねたおかあさんがバナナ味の飴をこっそり持ってきてくれた。ぼんごさんの腎臓には甘いものも本当はだめだけど隠れて食べなって、親心をいっぱい袋に詰めて持ってきてくれたのだ。

バナナ飴密輸

ぼんごさんはあたりをきょろきょろして、病院の人に見つからないようにバナナ飴をひとつ口に放り込んだ。
ひさしぶりに食べるお菓子は病院の外の味がして本当においしかった。あまかった。
「ありがとうお母さん!」
「残りはちょっとずつ食べるんだよ」 ぼんごさんはにっこり笑ってよろこんだ。

バナナ飴を隠し持ったぼんごさんのテンションはぐいーんと上がった。 ベッド横の棚に袋をしまいこみ、いつものように過ごしていたが、心のうちではいつ食べようかいつ食べようかと楽しみで仕方がなかった。

楽しみな気持がはやって、棚の扉をそっと開けてはうひひと喜んだ。バナナ飴の袋を見ているだけでうれしくてしょうがなかった。扉を開けてニマニマしては寝転がり、寝るのに飽きるとまた扉を開けてまじまじと、しあわせの詰まった袋を取り出して眺めた。そんなことを、その日は何度も何度も繰り返していた。

バナナ飴所持容疑

夜になって、検診の時間になった。
部屋の子供たちの体温や脈を計っていた看護師さん、ぼんごさんの様子に気づいて何かを察したらしい。ぼんごさんのところへやって来て、たずねた。
「ねえぼんごちゃん、さっき、なに見てたの?」
ぼんごさんは、ごまかそうと思った。怒られる気がしたのだ。ひどく焦った。
「ううん、なにも見てない」
「あらそう?なにか楽しそうに見てたように見えたわ」
「ううん、ぜんぜん見てなかったよ」
「へぇー」
やばい、疑われてる。
「そこの棚に、何かしまってなかった~?」
看護師は棚に目をやった。ぼんごさんはどきどきだ。
「ちがいます。お金が入っているんです!」
「そうなんだ~」
とわざとらしい口ぶり。まずい完全に気づいてるこの人。
「お金、見てみたいな~。どのくらいあるのかな~」
「たいせつなお金だから見せたくない」
「えぇ~気になるな~」
「いやです、本当に大切なお金だから・・・」
見せろ見せない問答がしばし続いた。 バナナ飴だけは守らなければ!

バナナ飴持ち込み罪

しばらく話し込んでいたが、看護師はいっこうに納得する気配がなく、むしろ絶対に棚の秘密を暴いてやろうという気勢を曲げなかった。押し問答も終わりのほうでは、バナナ飴が惜しいという気持ちより、悪いことに巻き込まれているという恐怖感のほうが強くなっていた。

看護師の圧力に耐えきれず、やがてぼんごさんは叱られる覚悟を決めた。泣く泣く棚の扉を開けた。
「あ、バナナ飴だあ」
とまた演技っぽく看護師は言った。同時に「やっぱり持ってたんじゃねーか」という心の声を、ぼんごさんは聞いた気がする。こっぴどく怒られるのだろうなとぼんごさんは悲しくなった。飴を持っていただけなのに。

結局バナナ飴は取り上げられなかった。
食べてもよかったのだが、あの夜の一件いらい食べる気を失ってしまった。バナナ飴のために怖い思いといやな思いをして、いまはもうお母さんに持って帰っていってほしかった。病院のことに背いたらいやなことがやってくるのだと、ぼんごさんは思い知った。それは食欲をも封じるきつい縛りだった。病院のルールは絶対だったのだ。ルールを外れると身体がどうなってしまうのかわからない。ベッドのまま病室を出てゆく日を招いてしまうかもしれないという漠然とした恐怖がいつもあった。飴ごときで、ルールを外れるわけにはいかなかったのだ。

数日後、お母さんがバナナ飴を持って帰ることになった。 最後に、ぼんごさんは何個かのバナナ飴をもごもごと、結局食べた。ちょっとくらい外れてもいいと思う。

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