ぼんごさんの発作には、いくつかの症状がある。
急に吐き気をもよおすこともそのひとつだ。
お腹が気持ち悪くなり、胃が勝手に動きだすようで、お腹の中に渦巻いていたなにか呪わしいものが、食道を伝って身体の内側から体外へあふれ出してくるような感じ。
吐き気
よく、電車の中で気持ちを悪くした。
お腹が痛くなり、吐き気がやってきて、下痢のときのような切迫したお腹の気持ち悪さがやってくるのだった。
そういった胃腸の不調の前兆のような感じがあるのだが、暴飲暴食をしたとか悪いものを食べたとか、内臓の疾患があるわけではなくて、この、気持ち悪さや吐き気の症状だけが急にやってくるのだ。
体内からいやな感じが上ってきても、なんとかそれがあふれ出すのを堪えてぐぐっとそれらを呑み込んで体内に無理やり押し戻し、すっぱいつばを我慢してやりすごせば、今にも吐きそうではあるものの、そこにいられないこともなかった。
実際に吐くことはほぼなく、また、吐けばすっきりするというわけでもなく、こういった胃腸の不快感だけがひたすら襲ってくるのだった。
突然やってきて目に見えず起こる変化なので、周囲の人から心配されることもなく、よくよく注意してみれば顔が土気色になって唇が紫っぽくなって、汗ばんでいたのだと思うが、一緒にいる子たちもまさか突然友達がそんな状況になっているなどと心配をしてくれるわけもなくて、ぼんごはただただこの不幸な時間を呑み込んだ。
必死に耐えているので身体が緊張した。
つめたい汗をかいていて、山を過ぎるとどっと疲れを感じた。
学校に出かけると、通学中でも授業中でも吐きそうになる心地を頻繁に感じるようになった。
電車とか教室とか、その場から逃げられない状況でよく起こった。
食事を制限する
それで、いつかそういった環境で周囲に大きな迷惑をかけるのではないかとぼんごは不安に思い、これらの発作がひどかった時代は、外出時に胃の中に物が入っている状態を嫌うようになった。
自ら、食事を制限するようになってしまった。
朝は食べない。米類、パン類はもちろん、水やコーヒーなどの水分も取らずに学校に行った。お菓子とか健康補助食品のようなものすら口にしなかった。
お昼はお母さんがお弁当を持たせてくれていたが、すこし口に運んでは、ほとんど食べず、弁当箱の中もほぼ減らさずにお昼休みを終えることが多かった。
本当はお昼ご飯を食べるという行為すらせず寝ていたかったが、友達と一緒にいることが多いし、その輪を乱すようなことはしたくなかったから、しぶしぶお昼に付き合っていたような感じらしい。
お弁当の中身は帰りがけにどこかに捨てて、空になった弁当箱をお母さんに返した。
いつだか、中身を残したまま弁当箱を返したら例によって叱られて、お母さんに体調のことを説明するのも面倒くさく、きっと理解してもらえないから、罪悪感をおかずと一緒にどこかへ捨ててから家に帰るのが常になってしまっていた。
いまになってみれば、お弁当を食べてもらえなかった悲しさがわかるから、当時はお母さんには悪いことをしたなと反省している。
夕飯は普通に食べることができていたらしい。
お腹が空く感覚よりも発作の恐ろしさのほうが強くて、何かを食べたいという感覚がどこかへいってしまったようだった。
このころから十年以上は、朝昼晩の食事を満足にとれたことはない。
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