何のために生まれてきたのか

ぼんごさんと中学校

まったくできる気がしない。
そんな気持ちを抱えて普通に無理やり編入したぼんご。

14かそこらの短くも尊い人生の中で、腎臓が悪いということはもはや自己認識の一部に完全に食い込んでいたので、普通を過ごすことは困難の連続だった。

見えない敵あらわる

多感な年代のこと、誰だって、成長のための時間が必要だ。

この年齢になるまで生き永らえてきたぼんごの心の中にも、見えない詩人が生まれていたり、「自分探し」のようなもやっとした難題があって、しかもその手の問題の中心には謎の免疫複合体が今もってびっしりくっついていた。

ぼんごの場合、学校や友達との付き合いといった生活のその辺に現れる思春期の煩悶は自分自身の内臓の問題に直結していて、腎臓の問題が解消されない限りは生活の悩みのほうも解決しない、という循環参照のような形をとっていて、ようやく、そこに壁という防衛機構を編み出して、なんとか学校生活を乗り切っていこうと腰をすえたところだった。

その矢先に寛解を迎えたものの、普通になるということはぼんごにとって新たな問題のスタートであって、この新たな問題に対応する時間が続いたことで、自己認識のバランスを崩すようになってしまっていた。

いままで不本意ながら身体のために腎臓のために自らに制限を課していろいろと我慢してきたのに、いまさらみんなと同じ舞台に立てと。みんなはだいぶ前に行ってしまっているのにこれから追い付かないといけない。そんなこと、できる気がしない。自分は普通の中ではなにもできないと、自分と他人との差を明確に意識し、そしてそれを寂しく思った。

若いぼんごは、この悩みをだれにも話さなかった。
このころから、本人曰く「見えない敵との戦い」が繰り返されるようになる。

悩ましい悩み

ようやく最近になって、この頃の心境を語るのに、ぼんごはまさにこの歌詞の通りだよと言う。

BONGO<br>DONT'YOU<br>LOVE ME?
BONGO
DONT’YOU
LOVE ME?

何のために生まれて来たのか

LUNA SEA 『JESUS』より

作曲:LUNA SEA

作詞:LUNA SEA

行き場のない懊悩を不安定な音階にして乗っかり怖い場所から逃げ出してゆく、みたいなメロディと歌詞はアンプとマイクとCDとスピーカーそして耳をつたって壁の中のぼんごにも届いた。

思春期のざわつく心に、激しさと、暗さと、格好良さ、そしてアルペジオの美しさを教えてくれる曲だった。

あなたは何故に生まれて来たのか。
何のために生きるのか。

あなたは普通よりも劣る身体を与えられてどうやって生きるのか。
あなたの将来はどうなるのか。あなたの幸せは何なのだ。

見えない敵が問いかけてくる。

そういった問いかけから逃げるように、ぼんごは壁を無視したり、あるいはより壁の奥深くに入ったりした。

本当に人知れずぼんごは悩んでいた。
この手の悩みをぼく以外に話したことはないらしい。

ぼくは、この手の悩みは難病があろうがなかろうが同じなのでは、難病が無いなら無いで新たな悩みがこんにちはするのでは、と、だからみんな一緒で、自分だけが悩み苦しんでいるわけじゃない、そういう人はたくさんいるから一人だけで抱え込まず話をしよう、そうすれば少しでもわかるようになる気がするから、と根気よく語り続けて今日を迎えている。
そんなふうに話をしても身体が回復するわけじゃないのは承知のこと、漫画みたいに身体が入れ替わりでもしない限りは難病のつらさをわかることは永久にないとも思う。

でもすくなくとも、悩みの原因が自分自身の身体の中にあること、そして自分ではどうにもできないことであることで、ぼんごの悩みは生きている以上は一生つきまとうものでその期間や影響は普通とは違って長く、また目にも見えないし分かりづらく、他人にわかってもらえず大変につらいことだとは、頭では理解しているつもりなのだ。

また最近のことだが、NHKで放送していた村山聖のドキュメンタリーの中に、本人の手記が出てきて、メモ帳のようなものに書かれた言葉を見かけたときは、何故か僕は笑ってしまった。

「なんの為 生きる?」「何故人間は生まれた?」

同じ腎臓の病を抱えていた棋士村山聖も同じようなことを吐露していたと知って、たいへん不謹慎ながら腎臓病仲間のあるあるなのかもしれないと、なんだか、ぼんごにも仲間がいたのだと安心したような気分になってしまったのだ。

寛解を迎えたころから、悩むことはほぼ趣味のようになってしまっていた。
心の不安定と引き換えに腎臓の安定を得たようなものだった。

だいたいいつもぼんごは独りぼっちでびーびー悩んでいていまもそれは変わりがない。

のだが、目を瞑りひざと布を抱えて壁の中に閉じこもり、普通を遮断したつもりでいるのに、不思議と、耳だけは外の様子をしっかり捉えていた。

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