ぼんごさんと小学校:無知なぼんごさん

腎炎

一年に何か月かは入院生活であったぼんごさん。
入院から帰って来た時などは、クラスメイトが教室で何を話題にしているのか、ついていけない瞬間が幾度となくあった。

小学生も高学年に近づけば、誰ちゃんが何君を好きだとか、かっこいいだとか、テレビアニメや漫画やテレビドラマの話題やら、誰々さんは勉強ができるとかお金持ちだとか、アイドルや芸能人のことや、最近の流行りの物事の話だとかお笑い芸人のギャグだとか、小学生の身の回りに普通に起こる森羅万象がクラスの中を行ったり来たりして流動的な話題となって飛び交っていて、そこには、世の中をミニチュアにしたような、ちっちゃい世間が形成されていた。

なぞの言葉

あるとき、男子の数人が何やら楽しそうに騒いでいた。
なにかを言ってけたけた笑い、また何かを言ってはぎゃあぎゃあと笑っていた。

そのうちの一人がぼんごさんに目をつけて、話しかけてきた。
「ぼんごー!せっくすって知ってるー!?」

初めて聞く言葉だった。なにそれ。
「そんなのもしらないのかー。ぼんごは子どもだなあ!」
きょとんとしているぼんごさんの反応を見て、男子たちは何かを言ってまたけらけら笑って去っていった。

なんだろう今の言葉は。なんだか面白いことなんだな。
私にはわからないから、いない間に学校で流行っていたギャグかなんかなのだろう。
いいな、楽しそうだな。

ぼんごさん、クラスメイトの流行りに乗れない寂しさをひとりかみしめた。
自分だけ仲間外れにされているようで悲しかった。

なんでか知らないが、その言葉が何なのかを友達が教えてくれることもなかった。それも寂しかった。
自分が知らないことがあることで、笑われるのも嫌だった。

好きで入院しているわけじゃないのに、なんで自分だけこんな思いをしないといけないのだろう。
腎臓が悪くなかったら、もっと学校に来られていたら、こんなことで寂しい想いをしなくてすんだのかしら。
ぼんごさん、吐き出したい思いをぐぐっと呑み込んだ。

辞書を引く

学校から帰って、今日学校で男子たちから聞いた言葉が気になった。
まじめなぼんごさんは、いつも使っている小学生向けの辞書でその言葉を引いた。
自分だけが話題についていけないのが悔しかったのだ。

こういったなんでもない調べものも、できるだけクラスのみんなの輪の中にいたいぼんごさんのささやかな努力だった。だから、授業や友達との会話で出てきたわからない言葉はよく辞書で調べて、ひそかに勉強をしていた。

せ、せ、せ。
せた、せち、せつ、せつ。せつく。

・せっく【節句】
五節句のこと。3月3日の桃の節句、5月5日の端午の節句など。

・ぜっく【絶句】
言葉が出てこないこと。

・せっくつ【石窟】
岩をくりぬいたりしてできたほらあな。

ない!なんだこの辞書は!
この言葉がなかったことでぼんごさんの知識欲は逆に燃えた。

それで、通っていた塾で学んだ英語の知識を活かして、英和辞典を引っ張り出した。
S、E、C?、K?なんか違うな。
そしてぼんごさん、英和辞典とにらめっこを続け、やがてその言葉の外郭を知った。

それでもまだ言葉の意味が分からなかったので、後日近所の本屋さんの子供向け教育書のコーナーでそれっぽい本を探してぱらぱらめくり、イラストとかを見て、より具体的に言葉の輪郭を掴んだ。

これが面白いことなのかどうかよくわからなかったが、これでクラスのみんなに笑われることもなくなったはずだと、ぼんごさんは落ち着いた。

しかしそれでも謎は残り、よくお風呂で見るお父さんの姿を想像して、世界は謎だらけだと、ひとつ賢くなった気がしたのであった。

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