ぼんごさんという人

ぼんごさんという人

ぼんごさんという人は僕の奥さんだ。

ぼんごさんは幼いときから腎臓が悪く、だいだい体調が悪い。

ぼんごさんの腎臓は普通の人の四割から五割ほどしか機能していないらしく、疲労物質がおしっことして出てゆきづらい。何をしてもすぐ疲れてしまう。

十代のころにはパニック障害にもなった。そのためよく抗不安薬を飲んでいる。

ぼんごさんは狭いところにはいたがらない。めまいがするので賑やかな場所をきらう。

昔は何駅か電車に乗るのも大変なことだったらしい。

ぼんごさんは、病気のことを他人に言いたがらない。

理解されないからだ。話したところで分かってもらえないと諦めている。

病気のことを周囲に話さないので、体調が悪いときは、怠けていると思われている。

病気のことを理解してもらって周囲に助けてもらえばいいのにといつも僕は思う。

そのほうが楽できると思うのだ。何度かそういうことを提案してみたこともある。

でも、ぼんごさんは自分の生き方を変えることはない。

「つらいつらい疲れた」とぶーぶー文句を言いながら、今日もまたひとつ無理を乗り越えてきたらしい。

ながらくそういう姿を見てきて思うことがある。

ぼんごさんという人は、僕には感じることができない強い矜持を持ってその一瞬を生きているのかもしれない。

病気を理由に誰かに助けられることを望まず、自分自身の力で生き抜いてゆくことを求める強い信念があるように思えるのだ。そしてきっとこの人は、紫斑病から腎炎を引き起こした幼いころからずっと、そうだったのだ。

たぶん明日もまた、ぼんごさんは人知れず自分の病気と付き合いながら、疲れた疲れたと言って無理をして生きてゆくのだろう。

不器用な人だと思う。でも、ぼんごさんの生き方には気高さがある。

ぼんごさんは自分自身のことを多くは語らないけれど、こういう人がこの時代に生きていたということを、僕はここに残したいと思う。 できることなら、つらい毎日の中で、すこしでも笑わせてやりたいと思っている。

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