10歳くらいのときのこと。
入院生活も長引くとぼんごさんはベッドの上で少しずつ自分の主張をすることを覚えた。依然として入退院を繰り返す生活のなか、早めの第二次反抗期が来たのかもしれない。
看護師さんの思い付き
病院の中に食堂兼プレイルームとなっていた部屋があった。食事はその部屋で食べてもよかったし、ベッドの上で食べてもよかった。いつもならひとりだけでベッドの上で食べるところ、その日は看護師さんの発案で小児病棟のこどもたちで集まって、みんなで食堂で食べようという話になった。「話になった」というのは、実際のところまったく看護師さんの思い付きで強制的なものだったらしく、その日の朝食の時間に突然そのように聞かされて、ぼんごさんは困惑した。
ぼんごさんはプレイルーム行きを拒否した。プレイルームは小さなこども向けのおもちゃとか漫画とか本などが置いてあって遊ぶ場所という雰囲気だったので、なんとなく食事をする場所と思えず、何度か赤ん坊が涎をべーっと垂らしていてそれを看護師が拭いているところを目撃したりもしていたので、落ち着いてご飯を食べられる気がしなかった。プレイルームにも赤ん坊にもおもちゃにも罪はないけど、ぼんごさんが病院で一番落ち着くのはベッドの上だったから、ご飯もベッドの上で食べたいです、と主張した。
看護師さんは聞く耳持たず、みんな一緒なんだからぼんごちゃんだけ我儘言わないの、みたいなことを言ってぼんごさんを怒り、連れ出そうとした。しかしぼんごさんは譲らなかった。行きたくないとごねた。看護師さんも折れなかった。しつこくぼんごさんを誘った。決まり事なんだからちゃんと従いなさい、みたいなことを結構強めに言われたらしい。やがて「来なさい」「行きたくない」の繰り返しで押し問答のようになってしまった。
人の冷たさに触れる
なんで私がわがままなんて言われなきゃいけないのよ!どこで食べたって同じご飯でしょ!どうしてプレイルームじゃないといけないのよ!いかねーよ!とぼんごさんは怒って、「プレイルームに行くくらいなら今日のごはんはいりません」と行動に出た。病院のルールには逆らえない、それは身体にかかわることだから医者や看護師さんの言うことには従わないといけない、という考えが染みついてはいたが、食事をプレイルームでとることはそのルールとはかけ離れたもののように思えたし、プレイルームははっきり言って汚いからただただ嫌だったのだ。ぼんごさんはいつものようにベッドにいたいだけだった。
ところが看護師さん、ぼんごさんの身体を張ったメッセージを無視して、ベッドに運ばれてきた食事を取り上げて、プレイルームに持っていくからあとでいらっしゃいね、なんてぼんごさんを置いて勝手に病室を出て行ってしまった。
普段から病院食をまともにとっていなかったぼんごさん。ご飯が持っていかれたことについて惜しむ気持ちはなかった。それよりも、看護師さんが自分の意見をまったく聞いてくれなかったことがつらかった。この人は私のことなんて全然気にしてないのかもしれないという、人間の冷たさに触れた気がして悲しくなった。
そして、横になってふて寝した。
お気に入りの布でしょっぱい涙を拭きながら。
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