ぼんごさんの入院生活:ぼんごさんと病院食

腎炎

ぼんごさんは入院すると、いつもまずい病院食を食べた。
薄味であんまり暖かくなくて柔らかくて塩気のない、まずい食事だ。

病院食は健康第一なのでおいしいはずはない。僕も入院の経験はあるので普通の病院食の雰囲気はわかる。だいたいご飯は柔らかくて半分おかゆで、塩分や脂質はかなり抑えられていて、とても物足りなさを感じる料理だ。

ぼんごさんのような腎炎の患者の場合はしかし、普通の病院食よりもさらに制限がきつい。塩分が腎臓に負担をかけるため、塩気がさらに抑えられるのだ。厚生労働省の情報によれば一日の塩分摂取量の目安は女性6.5グラム未満で、実際の摂取量は9.2グラム程度になるらしい。普通に暮らしていれば一日9グラムくらいは塩分をとっているということだ。それが、ぼんごさんの場合は一日の塩分摂取量を1グラムに抑えなければならなかった。安定しているときは3グラムまで許されたらしい。

1日に醤油小さじ一杯

塩分量1グラムというのは、調味料で換算すれば、食塩なら小さじ1/5杯、普通の醤油なら小さじ1杯、ケチャップなら大さじ2杯、めんつゆなら大さじ1杯、顆粒のだしなら小さじ1/2杯強、それくらいの量だ。加工食品で換算すると、8枚切りの食パン2枚、トマトジュース1缶、ベーコン5枚、ハム2枚、うどん3玉くらい、魚肉ソーセージだと1/5本、ちくわだと3/4本、チーズだと1個ちょい、ああ悲しくなってきた。

一食でじゃなく一日の量なわけで、食パンを2枚たべたらもう塩分オーバーなのだ。パンにハムを挟んでバターをぬり、トマトジュースを飲むなんて自殺行為だ。ちくわに醤油をつけるとか、うどんにめんつゆをかけるとか、そういった普通の食べ方も避けないといけない。調味料の量からして、塩を避けるほうが難しくないか?ってくらいの制限だ。この分量で一日の献立を考えると必然、ほぼ味のない料理になる。

実際に出ていた病院食のメニューでぼんごさんの印象に残っているのは、味のない粉吹きいも、醤油なしのお豆腐、味のない謎のお魚あたりだ。お味噌汁は塩分が高いから無い。おかゆっぽいやわらかいご飯も味がなくて嫌だった。作ってくださる方には申し訳ないが、とにかく想像を絶するまずさだったという。

そんな食生活を続けていたぼんごさん。入院中はいつもしょっぱいもの、甘いものを欲しがった。
入院生活は、食事制限との戦いでもあったのだ。いまでもお味噌汁を飲む習慣がない。その暮らしに僕も結構なれた。

楽しくない食事

ぼんごさんは病院食にすっかり飽きてしまった。食事の時間は楽しくなかった。
次第に、食べること自体が辛くなってしまい、ご飯を残すことが増えた。ちゃんと食べているかどうか病院に記録されていたため、残すと注意された。ちゃんと食べなきゃだめ、と看護師さんに諭された。

でも無理なものは無理。すこし成長して悪知恵を付けたぼんごさんは、出されたごはんやおかずを食べずに、お皿の上でぎゅぎゅっと圧縮し、食器の端のほうにごちゃごちゃっと寄せて減ったように見せかけた。これで何度か看護師さんのチェックを逃れたらしい。

しかしぼんごさん、食べないものだから痩せてきてしまった。
あるときお母さんが先生に呼び出された。
「これ以上病院食を食べないのなら、お母さんに食事を用意してもらいます。」

お母さんはぼんごさんを優しく説得した。
ちゃんと食べないとおうちへ帰れないのよ。

ぼんごさんは無心で食べた。

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